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オール・ユー・ニード・イズ・セックス――アシオミマサト『クライムガールズ』

2017年にティーアイネットから発行されたアシオミマサトの単行本『クライムガールズ』は、9月14日をずっとループし続ける男の話である。
むろん、猫も杓子もトムクルーズも時の輪の中を回り続けているこのテン年代において、いまさらループ物などと言われても驚きはない。むしろ今更感すら漂う。

だが、そのループを始めるトリガーが膣内射精だったらどうだろうか?
つまり、『クライムガールズ』は、エロ漫画でありながらループもの漫画なのだ。しかも、ループものであることとエロ漫画であることは、本作の中で単に並列されているのではない。『クライムガールズ』には、「エロ漫画×ループ漫画」という組み合わせによってのみ実現可能な美的達成(面白さ)がある。となれば、ゲーム的リアリズムを日々サヴァイヴする我々にも驚くべき理由はあるだろう。



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・あらすじ


『クライムガールズ』の主人公・ハルは、9月14日を何度も何度も繰り返している。
彼は繰り返される14日の中で必ず、ある女性の後ろめたい行為――犯罪や不倫――の現場に立ち会う。ハルはその現場を押さえ、女性を脅し、セックスに持ち込まなければならない。
そして無事、膣内射精に成功すると、彼は今のループから抜け出し、新たなループに突入する。次の9月14日が始まり、ハルはまた別の犯行現場に飛ばされ、新たな女性と出会う。いわば次のステージに進むわけだ。


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↑ループはセックスによって突破できる



なぜ自分はこんなループゲームに巻き込まれることになったのか。その謎を解き正常な時間に戻るため、ハルは次々に膣内射精を続けていく――以上が本作のあらすじである。

あまりにも馬鹿馬鹿しい設定なのでコメディのように聞こえるかもしれないが、本作はあくまでシリアスなSF作品として描かれている。例えば、膣内射精がループを抜けるトリガーであることにも後できちんと説明がつき、ある人物にとっての非常に切実な事情があったことがわかる。実用目的で手に取った読者も、だんだん本作の豊かなドラマ性に引き込まれていくことだろう。



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↑本作ではタイムリープの象徴として蝶が使われているが、これは映画『バタフライ・エフェクト』を暗示している。とある重要な展開がこの映画から引用されているのだ



・ループ設定の二つのポイント



では、冒頭で述べた「美的達成」について詳しく説明しよう。
あくまで私見に基づく仮説だが、ループ設定が漫画やアニメや映画の物語に対して持つポイントは、以下の二つに要約できる。


・再現性
・別様可能性



再現性とは、「初期設定が同じであるならば、同じことが起こり続ける」ということである。一方で別様可能性とは、「今起こっている出来事のあり方の背景には、別の様々な可能性が存在する(した)。この現実はその中の一つに過ぎない」という視点・感覚である。ループものにおいては、決められた時間の中で同じ出来事が起こり続ける。しかし主人公が初期設定に対して手を加えてやることで、出来事は上書きされ、毎回違った進展を見せていく。この「同じ」と「違い」のペアがループものの本質である。

ループものの傑作の多くは、この二点をうまくドラマの面白さにつなげている。
例えば『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(映画版)のトムクルーズは、ループし続ける世界のあり方や敵の動き方がいつも全く同じであることに気づき、それを暗記することで、「覚えゲー」で過酷な戦場を攻略する。これは再現性をうまく活かした例である。
一方で『まどマギ』のほむらの心は、別の世界で死んだまどかたちを重ねつつ、目の前のまどかを見なければならないことに悲鳴を上げている。まどか自身は他の世界で自分が辿った運命など思いもよらない――ほむらとまどかのこの視点の落差(別様可能性が見えているかどうか)が広がり埋まること、それが『まどマギ』という作品の感動の勘所だ。

では『クライムガールズ』はどうか?本作の面白さは、ループ設定の二つのポイントを、エロ漫画でしかできないような仕方で活かしていることにある。『クライムガールズ』においては、ループものとエロ漫画の組み合わせは必然的なものだ。


・再現性――女性を攻略する覚えゲー


エロ漫画に登場する男は、童貞だろうがショタだろうが、ほぼ必ず性的テクニシャンである(力任せのプレイが良い、というようなケースも含めて)。ほとんどの作品でヒロインたちは、男性キャラとのセックスから過剰なほど性的快感を得、深い絶頂を味わう。それはもちろん、感じる女性を見たい、あるいは女性を感じさせる優越感を味わいたい、という読者の欲望ゆえのご都合主義に過ぎない。

『クライムガールズ』の主人公もまた平凡な少年に過ぎないはずなのに、セックスに積極的でない女性であっても感じさせ、膣内射精まで持ち込んでしまう。しかし本作では、主人公の性的練達ぶりにはちゃんと説明がついている。それもループものでしかできない仕方で。
――何度も同じ相手とのセックスを繰り返すなかで、それぞれの女性の性的嗜好や、敏感な場所を学習し、次のループでそれを再現することで、自らのセックスを目の前の相手に最適化しているというわけだ。もはや読者がその虚構性を特に意識していない「エロ漫画のお約束」をわざわざ巧みに合理化する律義さは、コミカルであると同時に、確かにSF的な理屈付けの快楽ももたらしてくれる。


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↑性的嗜好の把握はもちろん、「アヤはここで射精してもあとで膣内射精させてくれる」など、プレイの展開も学習の対象になっている


・別様可能性――エロ漫画の様式性との組み合わせ



現実の背後に今まで/これからのループにおける別様可能性を見透かす相対性の視点は、論理的に言って、「いまの現実もまた、次のループでは消えてしまうかりそめのことに過ぎないかもしれない」という帰結を引き受けねばならない。それは解放感として捉えることもできる(『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でスター俳優トム・クルーズが何度も何度もくだらない理由で死ぬ爆笑のシークエンスは、ループ内での死が本当の死ではないからこそ可能になっている)。一方『クライムガールズ』はこの帰結を儚さとして解釈する。

ネタバレを防ぐために詳細を省くが、本作の終盤、ハルはループの謎を解き真実を知る。ループを終わらせるためには、主人公の大切なある人(以下Aと書く)をひどく不幸にしなければならない。Aはループを解消する前に、ハルと恋人として最後の一日を過ごすことを望む。もちろん24時間が過ぎ、元の時間に戻れば、Aとハルは恋人ではなかったことになり、さらにAにはつらい未来が待っている。それでも彼女はたった24時間の恋人ごっこを望み、ハルもそれを了承する。

このかりそめの24時間こそが本作のクライマックスである。最後の一日が始まってすぐ、ハルとAの前に、今までのループに登場した女性たちが再登場する2ページがある。前のループではハルとセックスしていた彼女たちは、このループでは単に通りすがりの他人だ。ハルとAの関係も同じように、一日過ぎれば書き変わってしまうのだろう。別様可能性を読者に印象付ける名シーンだ。



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↑「出会うはずだった女性たち」がハルの前を過ぎっていく



しかし今の文脈で重要なのは、ハルとAが過ごすかりそめの一日が、エロ漫画の――特に、ある特定のジャンルのエロ漫画の――非常に典型的な展開を忠実になぞるものとして描かれていることだ。いわば二人は、本作の外で、ほかのエロ漫画作品によって何度も何度も繰り返されてきたループする時間を再演しているのである。

その展開は、エロ漫画をある程度嗜んでいる読者にとっては、何度も何度も見てきた陳腐な様式でしかない(主人公のハルが、何度も何度も繰り返される9月14日にだんだんうんざりしていくように)。使い古されているだけでなく、非現実的な様式でもある。しかしその様式性、陳腐さ、虚構性こそが、かえってこのかりそめの一日の儚さを引き立て、そんな一見虚しい一日に思いを賭けたヒロインのいじらしさを強調する。つまりここでは、エロ漫画におけるいかにも非現実的で陳腐なストーリーの形式が、別様可能性に基づく儚さをより効果的に演出するために用いられているのだ。



・まとめとお尻



ここまで、『クライムガールズ』が、いかにエロ漫画でのみ可能な仕方でループ設定を消化しているかを説明してきた。だが『クライムガールズ』は、ストーリーや設定を気にせず単なるエロ漫画として読んでも十分実用性のある作品でもある。

アシオミマサトは女性の体の凸凹を線とトーンによって強調して表現することを得意とする作家である。
むろんこうした方法論は彼独特のものではなく、エロ漫画作家の一つの傾向・スタイルとして広く存在する。特に胴体の凹凸をしっかり描く作家は別に珍しくない(例えばすずはねすず、ぶるまにあん、ゼロの者、口リ作家のさらだなど。ただし、アシオミマサトがこの方法論を肉感の表現として用いているのに対して、さらだは体のスレンダーさ・貧相さの表現として利用している)。
しかしアシオミマサトのこだわりは、この方法論を特定の部位に特に情熱を持って適用している点に現れる。お尻である。本作でアシオミは女性の尻を描くとき、肉が余ってたるみ、尻肉の中、あるいは太ももとの境に段差を作る様をやたらと描く。このこだわり方は尋常ではない。しっかり肉ののったお尻を愛でたいという向きの読者(私を含む)にはヒットするだろう。


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↑お尻のたるみに注目!こだわりを感じる。



というわけで、本作『クライムガールズ』はエロさとストーリーの両輪が揃った、エロ漫画ファンにはおすすめの一冊である。

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